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モバイル番台
林恭正
- モバイル番台 - 銭湯の番台は、江戸時代の「湯屋番」や町の寄合場にルーツを持ち、
明治以降の公衆浴場の制度化とともに定型化されていった(参考:田中優子『江戸の想像力』)。
その機能は料金徴収にとどまらず、利用者との目線の交錯や会話を通じて、
場の秩序や関係性を生み出す「身体化された建築」でもあった。
このプロジェクトでは、そうした番台の文化的機能を現代に再解釈し、
廃業した銭湯を地域の集いの場へと再生する中で、「モバイル番台」を設計した。
高齢者をはじめとする地域の人々が訪れる場所において、この装置は単なる什器ではなく、
建築的な節点として多様な役割を担う。
モバイル番台は、一般的な「握る」手すりではなく、
高齢者が身体を預けながら階段を上がるという動作を支えるようにし、
手を置く部分は二段に分かれ、身長や姿勢の異なる利用者にも対応できる構成となっている。
構造の重心を下げ、段差の昇降を心理的・身体的に支えるよう調整されている点も特徴である。
さらに、番台には地元の閉業した古本屋から譲り受けた本を収める棚機能も備えており、
地域の記憶を空間の中に組み込む。展開・移動することで、屋台のように場をひらき、
人を引き寄せ、対話と交流のきっかけを生み出すことができる。
屋台や神輿といった可動型の建築文化に学びながら、空間に固定されず、ふるまいの中に公共性を立ち上げる。
什器以上・建築未満のスケールを持った仮設の建築的装置である。
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